「プロセラルム可能態」12 R18

Ⅻ エピローグ

この手紙を貴方が手に取ることが出来るかはわかりません。しかし、彼のために……スピカ・ユーリィのために、貴方へこの手紙を綴ります。

パトリック・リード。貴方が収監されてから、沢山のことがありました。貴方にとって既知のことも、そうでないことも、色々なことが起きました。ハイネとヨハネが魂を失ったこと。そして再び取り戻し、目を覚ましたこと。そして、貴方の元にハイネが面会したこと。本当に、色々なことがありました。
ハイネが突然貴方の元を訪れ、恐らくとても驚いたでしょう。しかし、それはハイネのたっての願いでした。目を覚ましたハイネが一番に求めたのは、パトリック、貴方の在り処でした。檻の向こうにいることを伝えると、ハイネはとても嘆き悲しみました。ヨハネのはからいだと話しても、そしてパトリックは元々重罪人であったことを話しても、頭ではわかっているが気持ちの整理がつかない、そんな様子でした。
私はどうにか彼女のためになりたいと考えていました。彼女と再び暮らし始め、彼女の信頼を再び取り戻した私ですが、沈み込む彼女の横顔ばかりを見つめて生きるのはとても心苦しく感じました。
私は苦心しました。使えるつてはすべて使い、集めた財産をかき集めました。そうして、貴方の独房の鍵を、たった数時間だけ、開けることに成功しました。
私が看守と時が過ぎるのを待っている間、ハイネと貴方の間に何があったかは想像に容易かった。しかし、私はそれで良かったのです。ハイネが最後に貴方に会えるなら。ハイネの魂がそれで満たされるなら。私は何を捧げても良かったのです。
今、ハイネはもう少女ではありません。母として、赤子を抱きその身を新しい命に捧げています。パトリック、貴方の子だと信じて。
ハイネに面会が出来ることを伝えたとき、私は一つだけ約束をしました。これから一生私の傍にいてもらいたい。犬ではなく伴侶として、私にこの身を捧げさせてほしい、と。ハイネは了承しました。ハイネは、私の妻として貴方の子を育てています。
ここで終われば、ハイネにとっては美しい悲恋の話になるでしょう。そして、貴方がこれを読みながら嫌悪感を抱いて破り捨てようと思うのかもしれないと思いました。ですが、安心してください。貴方の子はツメクサただ一人。それに間違いはありません。
産褥の苦しみで意識を失い、まだ赤子を見れないハイネの代わりに、私は生まれたばかりの子に面会しました。産婆が笑顔で抱かせてくれた赤子には、私と同じ……黒い、セリアンの耳がついていました。腕の中で泣く我が子を見て、私は決意しました。ハイネはパトリックの子を育んでいるというそれだけを生きがいに生きている。ならば、永遠に、ハイネを守り続けようと。
奇しくも母と同じように耳を切り落とされた我が息子は、幸いなことに健やかに育っています。貴方の子であり、私の子。スピカと名付けられた子は、貴方にも、そして私にも似た紅の髪に育っています。
収賄による面会が発覚し、貴方は遠くの独房へ移送されると聞きました。もうこれで本当に二度と会うことは無いでしょう。貴方にとっては愛娘、ツメクサのことが気がかりだと思いますが、彼女の消息も私達にはわかりません。彼女に罪はありませんが、しかし、貴方の娘として生まれた罰はいずれ受けることになるでしょう。
最後に、人の人生を欲した男へ、私達の人生の結果を込めてこの手紙を送ります。

スプートニク・ユーリィ

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