食事というのは、最大の無駄であり、娯楽の境地だ。
そのことを知ってか知らずか。いや、知らないとすればどれだけ不勉強なのだということだが……ハイエは一口でアップルパイを齧る。
パイ生地が軽快な音を立てて崩れ、とろりとした実の黄色い部分が形を変える。
大きな口を開けて頬張る癖に、やたらと食べるのが上手なハイエは、指先で唇の先をなぞる。カスタードソースの溶けたものが細い爪に添い、桃色の舌がぺろりと舐めとった。
「あ、ハーデスも食べたかった?ごめんごめん」
はい、あーん、と差し出された一切れを両手で押し退ける。ノーセンキューだ。
「こんな手間のかかるものを作ってどうするんだ。英気を養うにしても果実を齧ればいいだろう」
「ヘルメスと研究したんだよ、そうしたらヴェーネス様まで来てみんなで大騒ぎして」
エーテルを捏ねて作ったであろう。穴を開ける道具やら麦を挽く道具やら、リビングには奇怪な道具が積み上げられている。
「で?この部屋が粉だらけなのはそういうわけなのか」
はあ、と深いため息を吐く。いや、この部屋で深呼吸をすると粉を吸いそうだ。想像してさらにため息をつきたくなった。
指を慣らして箒の魔法人形を召喚する。小麦の粉を片づけて、ついでに奇怪な道具も片付けろ。と指令を出そうとしたときだった。
「ま、待って!まだ片づけちゃだめ!」
ハイエが立ち上がり、箒の魔法人形を掴んで動きを止める。
「何を奇妙なことをやっている」
「だってえ……」
と、もじもじと指を合わせる。
「ハーデスが納得するものができるまで、作るって決めたんだもん」
「……はあ?」
「ハーデスに、食べたいって言わせてやるまで作り直ししよっかなーって、思ったっていうか……」
「……」
無言で天井を眺めた。ああ、粉っぽい。嫌気がするほど粉だらけ。
腕を伸ばし、皿の上のパイを鷲掴みにして、一口で飲み込んだ。
ああ、粉っぽいな。