彼の靴は、しかし常に振り返っていた。
足を見えざる腕に掴まれたかのように、泥濘に引き摺られているかのように。彼の足跡は、常に泥に塗れ、過去に思いを残している。
彼女の靴は、しかし誰かの足跡を追うことを知らない。
光に導かれた彼女は、しかし時に光によって傷を負う。
けれど彼女は歩みを止めない。何故ならば。
「エメトセルク」
ボクがいくら問いかけても、この街は答えない。
あなたに会いたい。あなたに問いたい。けれどもう答えない。
この感情をボクは知っている。かつて、恋したのに自ら殺めた人よ。かつて、愛したのに自らのために死を受けた人よ。
「エメトセルク」
けれど、ボクはまた問いかける。
「あなたへは、恋もしない。愛ももたない。でも、あなたは、あなたは」
叫ぶように。かつてこの街を初めて訪れたときに香った強いエーテルは、今はもう影も形もない。
「ボクに何を抱いていたんだ。ボクの向こうの魂に、何をして欲しかったんだ」
あなたの足跡を辿る。あなたの軌跡を遡り、あなたの想いを知った。そして、相入れないと知った。
あなたを貫いた矛は、確かにこの手にあった。
「相入れないと知らなければ、もっと上手に跡を消していたら。ボク達は思い合えていたの?」
エメトセルク。いや、ーー真の名を、ボクは呼んだ。